ヨーロッパへ行って、バス、車や電車で国境を渡ったことのある読者も少なくないと思いますが、パスポートは聞かれないんですよね。まあ、そういう感覚。
電力も行ったり来たりします。何百キロ海を渡って、ノルウェーから輸入されているのも珍しくありません。電力の売買は普通のことです、大儲けする国だってあります。(それはガスや石油ではなく、純電力です。)例えば、スイスの場合は電力のサープラスがある時、つまり安い時に買います。その電力で揚水発電に水を揚げてます。電力が足りない、つまり高い時には揚水発電で電力を作って、それを高く売ります。それがヨーロッパだ!
そして、その中でよく
「原発をやめて、おまえらドイツ人、フランスから大量の電力を買い込んでいるでしょう。原発電力だよ!バカ!」
と言われます。そんなことはないと事前にも書きましたが、ここで10年間にわたって、フランスがドイツへ輸出されている電力を調べました。
このグラフでフランスからドイツへ輸入された電力の統計が分かります。年別するより、月毎は比較しやすいと思って、月別にしました。白黒と交代していくバーのは2000年1月から2011年3月の間です。
お気づきの通り、途中からバーが赤に変わりますが、それは、2011年4月以降の事です。ご存知の通り、ドイツの原発8基の停止を決めましたが、現時点では9基だけ稼動されています。つまり、「4月」の赤いバーは2011年4月と2012年4月です。
赤いバーが2012年6月まで続いているのは、entsoeでは7、8月のデータはまだアップされていなかったからです。
そして、緑のラインは11年半のそれぞれの月の平均値です。
ご覧の通り、2011年4月には一時的に多くの電力が輸入されていたけれども、ドイツは原子力撤回を決めて、8基がとめられたのは2011年6月11日の事です。
2011年4、5月に大量が輸入された理由は、ドイツが脱原発を決めた事ではありません。ご存知の通り、フランス人はガスではなく、自宅を電力ヒーティングを運用しています。(チェコ人もそうらしいです) 普通はまだまだ肌寒い四月にはヒーティングをつけている自宅が多いけれども、2011年4月の気温例年より10度も暖かくなって、ヒーティングをきったフランス人が多かったのは当然です。
原発は簡単に止められないのに、フランスは電力は余分にありました。じゃあ、何をすれば良い?
需要が低くて、供給が余分にあれば、物を安く売るのはもちろん、経済の基本です。フランスは電力を2-3.5セント/kWh当たりで売りましたが、ドイツの電力会社は投げ売り料金の電力を買って、それを大手産業顧客に8-12c/kwHで、個人客に23c/kWh以上で転売しました。
つまり、フランスからの電力輸入は電気取引所が決めました。
意外と知られていませんが、ドイツに輸入されている電力の一部はオーストリア、スイスたイタリアに「転送」されます。突然ドイツの隣国に需要が高まると、ドイツ領土を通る電力量も多くなります。
それから、2012年の2月に輸出電力が急減した理由はフランスの旱魃です。昔からフランスに旱魃ある度に、フランスの原発は水が足りなく、ドイツから電力を輸入します。
しかし、2011年4月以降にドイツはフランスから以前よりも大量の電力、つまり原発の電力をもらっているという事ではありません。2011年3月以降の仏→独の輸出電力量は平均を上回ったり、下回ったりしています。一時的な増加は見えても、以前より多く輸入されていることはありません。