もともと三月中旬に印刷されるはずだったこの本の印刷作業が、三月十一日に即座に停止されました。
なぜなら、その本のテーマは、日本の未来である。いや、SFではありません。日本はこれからどのような道を歩むべきか、その道が歩めるため、どのような施策が必要かというという指摘が書いてある本です。マッキンゼーが出した「REIMAGINING JAPAN: The Quest for a Future That Works」。
私の日本語学習歴はたった14年で、日本の社会を日本の社会人程度で理解していることも最近のことですから、バブル前後の日本は比較できませんが、ここ20年で停滞感を感じた方は少なくないと思います。日本
は、少子化、高齢化、国際化、様々な「化」に直面していると頷く方は少なくないと思います。さらに、3月11日に、東日本大震災というもう一つの大きな問題に遭いましたため、本はそのまま出せないとマッキンゼーが判断して、本を再編集して、4月に出しました。
日本の間違って歩んできた道、歩むべき道、歩める道等々について七九人の寄稿者は自分の意見をエッセーにまとめてくれました。七九人の寄稿者は、経営者、大学教授、新聞記者、市長、漫画家と様々な職業と経験を持っている方であり、全員は立場が異なっているため、様々な視点がまとめられています。
それから、「同じような趣旨の文章が何回か出て残念」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は逆にそのテーマの緊急性を感じました。七九人もいるんですから、「日本の少子化が国を駄目にする」という寄稿者もいれば、「日本の少子化はさほどの問題ない」という寄稿者がいるのが当然ですけど、編集者が本の内容を一つの方向に導いていったのではなく、寄稿者の多様性を認めている点は、この本の素晴らしいところです。
共感できる文章も違うでしょうから、どんな読者にとっては、どこか、琴線に触れる文章はあるはずで、それは日本語版のタイトル「日本の未来について話そう」通り、日本の未来について話すきっかけになり得ます。
当然、和英独語の新聞を読んでいる私にとっては、この本の内容がだいたい頭の中にすでにインプットされてはいます。定期的に新聞を読んでニュースを注意深く読んでいる日本人読者によっても、真新しい発見は少ないと思います:
女性採用問題、男女平等、教育制度の改革、国債、国際舞台での日本の存在感のなさ、国としての政策の不安定、外国人労働者採用問題、企業家精神の育成、貿易・労働市場・規制の自由化・緩和、法人税率の引き下げ、消費税の引き上げ、労働生産性の低下等々、社会問題・時事問題のオールスターキャスト。
それでも、自分の知らない、意識していなかったものもたくさん載っています。「re-imagining」という題から3・11について直接書いている記事が多いと想像るかもしれませんが、それは残念ながら少ないです。この本は、4月に出されたばかり、それに七九人の寄稿者もいて、震災に関する細かくて、深い分析は当然無理です。(一人で300ページがあっても、まだ時期ははやいと思います)
日本人寄稿者:非日本人寄稿者の割合は1:3ですけど、両側に優れて、とても面白い方の勢揃いです。残念ながら、外国籍寄稿者の3分の2は英語圏出身(アメリカ、カナダ、英国)です。(マッキンゼーで勤めているドイツ人四人、カンボジア人一人とは別として)、カルロス・ゴーン(日産社長、ブラジル人)、モハメド・エリアン(PIMCO社長、フランス兼エジプト人)、ペーター・レッシャー氏(シーメンス社長、オーストリア人)、クラウス・シュワブ(世界経済フォーラムの主宰、ドイツ人)、馮國經(利豐有限公司社長、香港人)、S・ゴパラクリシュナン(インフォシスCEO、インド人)、エザード・オーバービーク(シスコジャパン社長、オランダ人)、ベルナール・アルノー(LVMH社長、フランス人)シュロモ・ヤナイ(テヴァ製薬産業、イスラエル人)、イアン・ブルマ(記者、作家、大学教授、オランダ人兼英国人)という10人はいました。
もちろん、マッキンゼーが米国の会社ですから、どうしても米国中心にはなりますけれども、他にも有能な著名人がいたはずと思います。 経済界の事はよく分かりませんが、日本学者でも、例えば、事前にここで紹介したボン大学のツェルナー先生のエッセーは読みたかったですね。ドイツ日本研究所の元所長のイルメラ 日地谷・キルシュネライト先生、日仏会館研究センター長のクリストフ・マルケ先生も浮かびます。 日英米という観点がかなり強くて、残念でなりません。韓国の大学院での教員の半分が海外での学位を取得したと、本書に書いてあるんですから、日本に詳しい優秀な韓国人学者もいるはずですし、強くなっている日中のつながり、激しくなっている日中競争で、中国人(香港以外の中国)の寄稿者がいないこともとても残念です。
あいにく、「残念!」、「惜しい!」と個人的に思ったところはその他にもあります・・・ まず、それは、私のいつでもなんでも調べたがる性格だからかもしれません、インデックスが欲しかったですね。例えば、「少子化 3,5, 15, 87, 93,95-103, 107」と簡単に参照できたらいいのに・・・ おそらくはやく仕上げたのですから、その手間のかかる作業のインデックス作りはなかったけれども、Reimagining Japanはすでに何校家の大学図書館に購入されたに違いないですから、是非とも再版にインデックスをつけてほしいです。
この本は、日本の女性はもっと社会に参加しないといけないといいながらも、88人の寄稿者ののたった8人が女性であるのは残念でなりません。(寄稿者の10%以下):タイム北京支局長のHannah Beechさん、DeNAのCEOの南場智子さん、ワークライフバランスの代表取締役社長の小室淑恵さん、横浜市長の林文子さん、タイム東京特派員の槙原久美子さん、イー・ウーマン、ユニカルインターナショナル代表取締役 佐々木 かをりさん、記者のGwen ROBINSONさん、作者のMartha SHERRILLさんです。例えば、枝廣淳子、上野千鶴子、田淵広子、妹島和世、キャシー松井、にも書いて欲しかったです… 個人的にね・・・
男女平等について男性を書かせるよりは女性に書かせた方がいいと思いますけど、個人的には色々な事が書けています。育児休暇後の職場復帰したがる女性が解雇されない法律が日本に存在しない事、社内保育園の少なさ、小学校の親”義務”参加の行事が多いため仕事と両立が難しい事等は読んだ覚えがてなく、とても残念だと思います。
教育については幅広く書かれていますが、その中に、日教組と教育制度の改革の関係は確かに見当たりませんでした。それから、福祉・医療のことは書いてあっても、日本医師会についても書いてなかった気がします。(あはは、それはまさに、ドイツは同じような問題に直面していますね・・・)
それから、日本は原子力であんな目に遭っているのに、エネルギー問題については少なすぎると思っているのは明らかです。エネルギー問題は震災で突然表面問題ではなく、飯田哲也先生等々詳しい方は前からたくさんいらっしゃいます。
日本の(外交を含めての)政策の不安定についての記事はありますけれども、政治ダケについては書いてありませんね。選挙制度、憲法等々日本の政治が膠着しているところについても書けばいいのに・・・と思いました。それに対して、スポーツは四つの記事も書いてあります。(二月まではトバイアス・ハリスさんに書いて欲しかったけど、一月下旬から日本語も英語もどちらのブログも何も書いていなくて・・・ お元気なのかしら?)
この本は、当然、日本の批判として捕らえる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は何より指摘と思って、国籍問わず、寄稿者の日本への愛は感じています。構成はよく出来ていて、自分の興味のある章、または興味のある著者だけ読んでもいいと思います。色々ためになる、勉強になることはたくさん書いてあります。震災前から、ジャパンブランドの信頼が失われていて、先が見えないと感じていても、日本が抱えている問題は真剣に向き合えば、それらの解決は可能であると感じさせることはこの本のいいところです。 
ドイツにはStammtischという習慣があって、おじさん何人かが決まって日の決まった時間帯に居酒屋の決まったテーブルに座っていて、おしゃべりをする。「おれは今夜はシュタムティッシュだから、飯は入らん」と出かけて、飲みながらしゃべります。男性の井戸端会議ですね。もちろん、身近な物についても話しますけれども、主には政治とサッカーの批判です。
「家族で、友人と日本について語る機会を与えてくれる、そんな一冊です。」とアマゾンで書いていますが、まさにそうです。私は合計5冊を買って、若い外務省職員、商社で働いている友達等々と、「この人なら、家族、職場、でこの本について話すでしょう。」と思って5人に贈りました。それから、私はあまりにもこの本の話をして、3人ぐらいは買いましたね。
友達に会う度に、日本の未来について話して盛り上がっています。
是非とも一冊を買って、読んで下さい。それから、気に入ったら、まわりの優秀な20代の友達、親戚にプレゼントして下さい。これから日本の未来を担う方に是非読んでほしいです。
それから、皆で居酒屋に行って、ドイツ人はビールを飲んでいるけれども、その代わりに東北の酒を飲みながら、政治の話で盛り上がるといいですね。