普通のツアー案内のほかに、すでに畳化シリーズと、日本人との出会いシリーズを書いているんですけれども、今日からは『日本のあいうえお』というシリーズも書くことに決めした。ひらがなのすべての文字に一つの「日本と言えば…」とあるものや概念について書きたいと思っています。「日本のあは挨拶」に続いて、「日本のいは居眠り」です。
タイトルは知りたくもないエロ漫画を開いて、分厚い黒縁メガネに隠れている目でストーリーを辿りながらも、なんだか落ち着かない雰囲気のサラリーマンが渋谷行きの半蔵門線に座っています。太い指にはめている指輪をみると、結婚はしているらしいけど、私の好みではありません。最後はいつ洗ったのか全く見当が付かない脂ぎった髪の毛。顔には10年前まで血と膿の溶岩を噴き出した死火山ニキビの名残がある。とにかく、私の好みではありません。
そして、隣の席には女子高生が船を漕いで、何分が経って、頭がようやくサラリーマンの肩に舫います。サラリーマンが横目でチラッとかわいい女子高生を見て、にんまりと笑います。
それじゃ、どんなにエロいエロ漫画であっても、もう集中できません。しかし、突然、女子高生の携帯の振動モーターがメールを知らせ、彼女は目を覚まします。
メールが届いたことに気付いて、姿勢を正して、携帯の画面のみて、さっそく返事を書きだします。サラリーマンはとてもがっかりした様子でワンピースの読書を再開します。
そのシーンを見た私は、内心何だかホッとしました。どんなかっこよくても、地下鉄出エロ漫画を読んでいる男性は、在日歴10年近くても、よく分かりません。このようなシーンは半蔵門線だけではなく、都内でよく目撃しそうなシーンですけど、今まで住んだことのある独英仏では見たことはありません。
だいいち、地下鉄、電車、会社、学校等々での居眠りはヨーロッパでとても考えられません。
いねむり[ゐ―] 3 【居眠り】
(名) スル
[1]座ったまま眠ること。
こたつで―する
[2]何かをしている最中にうっかり眠ってしまうこと。
居眠りは博士論文のテーマ(Keine Zeit zum Schlafen?: Kulturhistorische und sozialanthropologische Erkundungen japanischer Schlafgewohnheiten)にもなったぐらいで、「これぞ、日本!」です。
もう一つ、この間観察したシーンを披露しましょう:
アラサのOL二人が電車に乗って、少し見回してから、背の高い方はイケメンの隣に座って、もう一人はその向かい席に座ります。背の高い方は微笑みながら、す~っと夢の国へ入ります。入国手続きを終わらせ、頭が重くなって、隣のイケメンの肩によりかかります。とにかく、一見ではそうみえます。しかし、よく見ると、彼女は寝ていなく、向かい側に座っている友達にウィンクを送って、舌をべろっと出しています。その友達が挟まれているおばさんをみて、「あんた、しょうがない人だね」と笑みを返します。
まあ、普段にないスキンシップをこのように享受しているですね。
少し調べたところ、人間の身体は一日に七~九時間の睡眠を必要としています。寝る目的は当然、体のメンテナンス、修理、それから記憶の維持です。しかし、日本人の平均睡眠時間は7時間20分だそうで、欧州より一時間少ないです。(フランスでの平均睡眠時間は何と9時間ですよ。)推測ですけれども、その7時間20分には居眠りが入っていません!
最初の来日時には都内でホームステーをして、一人で中部と関西の旅をしました。その時に、どこにでも寝られる日本人に驚きました。当時の日記を見ると:
皆が本や雑誌を読んでいるよりも、日本人の、立ちながら、座りながら寝る能力はすごい!電車で本を読んでいる人と寝ている人はかなり多くて、それでも、本で夢中になったことで、それか寝ていたことで降りる駅を逃した人はいなかったようで…
それから、二年後に、日本の大学に留学して、ゼミで居眠りをしている人に驚き、さらに二年後に、日本で仕事をして、会議で居眠りをしている人にびっくりしていました。課内打ち合わせはまだ良いとしても、課長は半日20万円も払うコンサルティングで居眠りしては損しませんか。
確かに、日本は皆に見られる場所で寝る人は大変に多いです。国会議員は議会で寝て、社長は打ち合わせ中に寝て、子供は学校で、会社員も地下鉄で寝ます。つまり、日本人はどこでも寝られる素晴らしい超能力を持っているんじゃないですか!
欧州では、人前の居眠りはなかなか受け入られていません。地下鉄で寝る人は酔っ払いやホームレスと見られます。会議中で寝る会社員はどんな偉くても非常識で、出世はできなくなります。寝ている国会議員は次の選挙で落選するに違いありません。そして、学校で寝る子供の親は担任の先生に呼び出され、注意されるに違いありません(学校でも大学でも人は寝たことは見たことがありません)。
しかし、例えば、地下鉄で鯉のようにぱっくっとあけた口で、寝ている人間、いびきをかく酔っ払いはとても無防備であるため、人前に寝るのは、周囲への信頼、それから自信がないときっとできないことです。それはできる日本は大変治安のよい国だからとも思います。
もちろん、電車では、寝たふりをしては、優先席を譲らなくて良いことになって、学校でも居眠りをする生徒は注意されませんので、ある程度便利な現実逃避対策ですね。たぶん、何より、住居が狭い都会に住む日本人は乳児時代から、騒音に慣れています。なかなか一人になれないことで、居眠りをすることで、自分を外界から隔絶するコツを覚えます。
10年前は驚いたものの、その驚きは今もう、和らげ、畳化の急性症例の象徴であろうか、わたくし自身もどこでも居眠りできるようになりました。それから、アラーム時計が内蔵されているように、降りるべき駅の直前に目を覚まします。
当然だけど、それは出来るようになるまで少し時間もかかりました。10年前、皆が皆で携帯を持っていなかった時代の昔話です。新宿から恵比寿へ移動することで、「少しなら、寝ても良いよね。少しだけだから、深くは寝ないんだよね。」と思い込んで、すぐ寝てしまった。気が付くと、「次は恵比寿、恵比寿です。」というアナウンスが聞かれて、おりました。
「よかったよかった。数分しかないはずなのに、すごくリフレッシュたんだ。不思議!」
とぶらぶらとデート相手との待ち合わせ場所へ歩くと、彼がその駅前の喫茶店でイライラしながら待っていました。
「三十分も遅れる僕は確かに悪いけど、わざと僕をさらに30分を待たせるってなんだ!」
と怒られました。
えっ?わざと?待たせた?
よく気付くと、山手線で一周して、1時間もかかりました・・・
もちろん、それはその時にデート相手に言えなく、
「来ないから、外でぶらぶらしていたんだよ。有隣堂で立ち読みして、つい30分が経ったんだよ。」
と嘘ついた。えっへっ!6(^_^);
本大好きの私ですから、相手は信じてくれました。
10年が経って、日本語ではなく、居眠りもかなり上手くなってよかったです。
もう、デートに遅れることはありません。
追伸: 日本のあいうえおで読みたいテーマがございましたら、是非、ツィッターで@808townsお知らせ下さい。
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