もう少し前に、この記事を書くべきでしたけれども、ブログは本職ではないですから、どうしても遅れてしまって、ごめんなさい。まだまだ面白いと思いますので、書いてみました。
ドイツの首相はEU首脳会議から帰国して、メディアに絶賛される事はめったにありません。
メルケル首相は先週のブリュッセルの首脳会議で自分で設定したゴールを全て達成したことと、それはドイツにとって有益な結果になったことに、左右問わず、ほとんどのメディアが賛成しました。
経済団体にも同様に、メルケル首相の行動を大変ポジティブに受けました。
野党の社会民主党と緑の党でさえ、首相の決断力をほめていました。
面白いことに、ギリシャの債務の50%が免除されていることについては、ドイツ人の54%が反対、39%が賛成しています。
それにもかかわらず、世論調査に答えたドイツ人の51%もメルケル首相を支持しています。
ちなみに、二週間前の支持率は46%でした。
メルケル首相は冷静に原因と結果を分析し、自分なりの計画を立て、頑なと自分の信念のために戦っていたようにみえています。
(文字通り)独断で、ヨーロッパの首脳会議を延期させ、しかも、それを二部に分けさせ、ベルルスコーニ氏を圧力をかけて、それから、ヨーロッパの条約を改正させること・・・ 簡単に出来ることではありません。
ブリュッセルの首脳会議が始まる前に、ドイツ国会で、連立与党、野党のドイツ社会民主党、緑の党と共同で決議を出しました。(左翼以外)国会全党で同意見であると見せた事で、ドイツは全力で、EUを保護する気があると主張していました。もちろん、欧州金融安定化基金(EFSF)がきちんと機能して、欧州債務問題を解決されて行かなければ、与党の支援はありませんけどね。
最近の色々な出来事があって、ヨーロッパ諸国では、ドイツのイメージは事前と変わりました。
(ヨーロッパに住んでいたら、今はどんなに面白いんだよなぁ♪と思う時もあります。)
ツァイト誌で引用されるギリシャ人の外交官はドイツ首相について意見を聞かれて、
「強力な方です。」
としか答えません。
イタリア人の女性外交官は
「メルケル首相は一番大きい国の首相だから強いだけではなく、EUの首相の中ではもっとも真面目な方です。皆が彼女を怖がっています。」
ティモシー・ガイトナー米国の財務長官は「フランスとアメリカは一つの計画に合意して、行動を決意すれば、難関を乗り越えることは出来る。」(when France and Germany agree on a plan together and decide to act, big things are possible)と評価していました。
Global Association of Financial Institutionsが26日の夜、ギリシャの債務を50%免除に合意した声明書には、受取人の名前に「Chancellor Merkel、President Sarkozy」の次に、「Distinguished Leaders of Europe」となっていました。つまり、「ドイツ連邦共和国首相メルケル様、フランス共和国大統領サルコジー様」の次には「欧州首脳各位」と。
2009年半ばから、世界中(もちろんヨーロッパ中)に経済危機が高まったほぼ二年で、ドイツの経済力は増しました。国内総生産高は7%も増え、輸出は25%も増えたそうです。
しかし、ナチス時代という惨い過去もあって、権力、政治的な優勢を考えるとぞっとするドイツ人は多いです。第二次世界大戦後からドイツ統一までのドイツは奇跡的な経済復興をなしていましたが、単独にこんなことは出来ません。協力は必要です。ドイツは何より隣国と仲直りしたく、欧州同盟を促した原因はナチス時代にもあるでしょう。ドイツ人も日本と同様に軍隊の海外派遣を嫌っていて、それを「平和維持の展開」という婉曲表現をつけました。
ドイツ人にとって、権力は自慢しない事です。権力は持つだけであって、謙虚に動いています。
しかし、ユーロ危機がきっかけ、権力を見せびらかさないドイツはかわったようです。
長い間は、ユーロ圏もドイツ人の考えで作られたのも事実ですけど、役職はフランス人に任せていました。
最近の教科書を読みますと、ドイツとフランスの協力がなければ、EUは出来なかったと書いてありますけど、本当にそうですね。
ドイツは経済的についよい国であって、外交的なことはすべてフランスに任せていました。
それはヘルムート・シュミットとヴァレリー・ジスカールデスタンの時代からそうでした。20年前にベルリンの壁が倒れて、社会主義・共産主義の崩壊、それからドイツ統一までは、このバランスは保たれていました。
ヘルムート・コールとフランソワ・ミッテランもそのバランスが保たれていました。
独仏関係について、前欧州委員会委員長のロマーノ・プローディが事前に「レディーが決定を下し、フランス大統領はその後に記者会見でその決定を説明する。」(Prevertice per modo di dire - rimarca - dove lei detta le regole e lui fa la conferenza stampa )と言いました。
実は独仏のリーダシップではドイツは優勢を取っていました。今回もギリシャの国債の50%は免除されました。しかし、リーダーシップを握っているからといって、言い訳ではありません。ブリュッセルで何時間も交渉して、自分の押し通すのはよくありません。優秀なリーダーは守るべきものを守って、はやく物事を決めます。「やばい」と思って物事を決めるじゃありません。ヨーロッパでは何兆ユーロも動いていますけど、全てはドイツ次第だと私は感じています。
ご存知の通り、ヨーロッパで三番目に強い経済のイタリアもお世話をやける子です。
イタリアの国債は既に2兆ユーロになっていますのに、何の対策もとられていないとパリ・ベルリンだけではなく、中央銀行も批判しています。
先日の日仏記者会見ではメルケル首相とサルコジ大統領はベルルスコーニの事を聞かれて、微笑みあったことで、イタリア全国はそれを国の個人名誉への攻撃ととらえて、ベルロスコニを支援しない記者でもあの微笑を批判していました。仏独伊の仲はけしてよくはありません。
大陸と縁がない島国イギリスでさえ、メルケルとサルコジはメルコジと呼ばれています。
今は、フランスも危ない立場にいるそうです。
格付け会社のムーディーズはもはや、フランスの優等生を再評価しています。
今まで最上位のAAAという成績で通ったけど、「今後3カ月間かけて見直す」とムーディーズが発表しましたので、フランス政府は財政赤字対GDP比目標を2011年度5.7%、フランスの債務残高が、GDP比85%の1兆6461億ユーロ(約181兆円)でもあります。ギリシャに投資したフランスの銀行も多く、さらに、裂け目が広がるかもしれません。ここで、フランスが倒れれば、ヨーロッパは簡単に立ち直れないことになるですか。
フランスでの世論調査では、75%に、ユーロ危機が自分の生活に影響を与えているといっています。
サルコジ大統領の負債・国債のやり方は非効率であるとは75%も言っています。一方、ドイツでの世論調査で75%はユーロ危機を感じないと言っています。
私は今までたいして、メルケル首相を評価しませんでした。選挙権を取得してから、緑の党一筋ですから、一度もあの当に票は入れたことがありません。政治的なスタンスとは別として、メルケル首相はよく出来ている政治家だとは最近思うようになり、尊敬しています。
この問題は24時間内に生じた問題ではないため、24時間内に解決できるわけではありません。
ヨーロッパを債務の山、責任の真空状態から開放して、それからヨーロッパのどっしりとした土台を作るメルケル首相が歩む道は険しいですけれども、ドイツ国民にも支持しているそうですから、歩けなくはないと思います。
ユーロ危機を解決するために、ドイツは必要になっているみたいですね。もちろんどこでもポジティブに受けてはいません。なぜ、安定化基金に賛成しなくても、メルケル首相の支持率はあんなに高いと何人かに聞いたところ、非常に面白い答えをもらいました:
「もう、複雑すぎて誰にもわかりません。政治家にだって、専門家にだって、誰一人も全部解る訳ありません。それぐらいは解ります。ドイツが強くなったのは良いと思っているのは、人前で言えないけど、誇りに思えるので、支持している人は多いじゃない?」
と、少し驚く答え。
「ユーロが失敗すると、ヨーロッパも失敗する」("Scheitert der Euro, dann scheitert Europa.")とメルケル首相は言ったけれども、おそらくこの50%の免除も足りないとうすうす感付いているでしょうね。
いずれか、この危機が終わると、ヨーロッパは変わったでしょう。当然ドイツも変わったでしょう。
どんなヨーロッパになるのか、心配しながら楽しみにしています。
7月のドイツ語圏での落語公演で残っているユーロ両替しないと良いですね。
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