スイス政府とスイス連邦議会は2011年9月28日、2034年までにスイス国内全ての原発を廃止し、再生可能エネルギーの支援を強化することを決しました。スイスも前から積極的に再生可能エネルギーに取り組んで、チューリッヒ市は2008年11月の市民投票で2000ワット社会と決まりました。
スイスはヨーロッパで風力発電所がもっとも少ない国の一つです。2009年の法律では、2030まで54億kWhの 電力を再生可能エネルギーで作るようになっていましたけれども、今のエネルギー戦略では2050まで220億kWhを上回る事が決まりました。
ところで、その220億kWhには水力発電が含まれていません。
2020年までにはウィンドパークが6億kWhを供給、2050年まで40億kWhを供給することが決まっています。それは、2010年の100倍以上になります。当時は32基の風力発電所が3700万kWhだけ提供していました。
風が土と平行して吹いているため、山岳地での風力発電所の立地は難しいと思っていましたけれども、40年内に100場合に増やすということは、このアルプスの国でも風力発電所でも可能ということですか。
まだスイスではドイツほど風力発電所は立っていないけれども、今度、グラウビュンデン州のヴァル・ルムネツィア地方ルムブライン村で、2012年から標高1244メートルでスイス最大のウィンドパークが建設される予定です。山間の深い谷に緑の草地に、小さな牧場、家畜小屋の中♪ 最大といっても、計画では40~60基になります。立地調査の結果で、それらは1億5千万-2億5千万kWhの電力を供給することが出来、つまり8万世帯分の需要が満たれます。
そのプロジェクトを実現するため、2億スイスフラン(173億円)という巨大なお金を投資しないといけません。
「最初の風力発電所は2012年に建てられ、300-500万Kwhぐらいになるでしょう。皆さんに風力発電所の事もよく分かって頂けると思います。」と、現地の有機野菜の農家を経営する他、このプロジェクトを運営するアルタヴェンタ社も経営しているイムフェルトさんが語っています。
2013年に風力発電所が相次ぎ出て、完成した時点でスイス最大のウィンドパークが生まれると。
アルヴェンタ社がやいうちに風力発電所を経営するアルタヴェンタ社は隣接市町村、山岳共同体、自然保護団体、スキー場、政治家等々と円卓会議で討論を開きました。
しかし、80年代には同じグラウビュンデン州でダムの建設、それに伴うグライナ高地の注水が予定されていましたが、自然保護団体の反対運動のおかげで、ダムは建てられませんでした。
自然保護、史跡保護、文化財保護と相容れない可能性はなくもありません。
以前に自然保護団体が反対していたこの場所にウィンドパークの立地とは、「円の正方形化と同じぐらいに難しい・・・」、つまり「無理に近いです。」と思われがちですが、そうではないらしいです。
第一、すでにスキー場、登山鉄道、スキーリフトが建てられており、冬はスキー客で賑わっていて、立ち入り 禁止級の自然保護地区は存在していないでしょう。
自然保護団体は風力発電所を出来るだけスキーリフトの近くに建てることを提案しています。一方、登山鉄道の運営会社(!)は景観を問題視しています。
山頂にあるレストランから、スキー客は山ではなく、山にウィンドパークを眺めることになり、観光客が遠ざかると心配しています。(上の写真は眺めのイメージです。)
自然保護団体の「プロ・ナテューラ」の方は(登山鉄道の)懸念は理解できないと言っています。「逆に、ウィンドパークはゲレンデの近くに建つべき!低地でもおなじでしょう」。スキー場、スキー客、スキーリフトはアルプスの自然破壊の原因となっていることもあります。
当然、スイスのエネルギー転換を実現するため、再生可能エネルギーの発電所が必要です。そのために、自然保護団体も協力しないといけないことは、団体もよく分かっています。
「醜いから要らない」という人は・・・ 東京の日本橋を昔の形に戻したい方も、そのままが良い方も両方いますしね。古代ローマには知っていました: De gustibus non disputandum est. (趣味について議論することはできない。)
私が思うには風力発電所は景色を破壊しているのではなく、利用しているだけです。例えば、私の子供が20-30年後に「この風力発電所はもう要らない」と思っていれば、何の痕跡もなく取り除ける事が出来るでしょう。一方、原子力発電所は「もう要らない」と思っても、そんな簡単に解体処理作業ではありません。しばらくかかって、放射性放棄物も何十万年も保管しないといけませんので大変です。
登山鉄道と違って、ルムブライン村は観光客が増える事も期待しています。
ベルン市近くのモン・クロザンでのウィンドパークに一年に一万人もの観光客が訪れる事があるので、「観光客を引きついけるチャンス」と村議会の方が話しています。スコットランドやデンマークでも風力発電所が出来ても、観光客は減ってはいません。(これは今度書きますね。)
村民は風力発電所に期待をかけています。産業国の田舎はどこでも同じ問題に遭っています: 過疎。日本もそうですし、ドイツも、スイスも、フランスも・・・どこでも同じです。 村民の数はたった380人で、一年に多く、一人、二人の子供が生まれます。若者が都会へ移り、人口が減りつつある。
「別荘を作ることだけで問題の解決にならない」と農家の方が語ります。
村にウィンドパークができれば、10-15人の若者の仕事が出来ると期待されています。アルタヴェンタ社とルンブライン村間の契約には例えば、村の人を採用しないといけないという項目もあり得ます。
それから、アルヴェンタ社は村に賃貸料を払わないといけません。ウインドパークのサイズによって、年間に百万フランとされています。アルプスの小さな村に大きなお金です。
当然、まだ色々な問題があります。風力発電所の何トンもするタービンとブレードを運搬する事だけは大変な作業です。(LEGOには風力発電所を運ぶトラックもあります。それぐらい運搬は大事です。さすがに風力発電王国のデンマーク!あんなおもちゃが欲しい!)
ムブライン村に辿り着くため、くねくねとしている道を、複数の枢軸を持っているトラックで運ばないといけません。(ここの映像はすごい!) 電力を供給するためには、高圧線の建設も必要です。
風力発電所の数、高さ、出力等々についても決めないといけません。まだ先が長い!
追伸: ヨーロッパ最高標高の風力発電所はウリ州のGütsch ob Andermattにあります。標高は何と2332です。立地作業中の印象的な写真はここまで。ウェブカメラはここまで!
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http://no-windfarm.net/というサイトを見ると、ゲレンデ近くに設置すると健康被害や雪崩の頻度が高くなるといった問題が出る可能性はあります。
コム・デ・ギャルソンデザイナーの川久保玲は「新しいもの、特にアートは最初、醜悪だ!などの非難を受ける」と言ってましたから、景観は時間が解決するのかも知れません。
スイスアルプスって環境に配慮して電気自動車を採用した観光地の最初の一つでしたか?
投稿情報: molinobannin | 2011/11/14 00:08