少し前までには、ドイツのビール、ソーセージ、アウトバーン、またはナチス時代の質問が一番多く聞かれましたけれども、この一年でもっとも聞かれたことはやはりドイツの脱原発です。
話しきれないテーマです。24時間連続話してもおかしくないぐらいに延々と語れます。どこから話せば良いのか分からない。
「ドイツの脱原発は…?」、「ドイツはなんで原発全廃にしたの?」と聞かれる時に、
「答えは全部、この本に書いてありますので、どうぞ!」
と言って、渡したい本があります。それは「メルケルはなぜ“転向”したのか・ドイツ原子力四〇年戦争の真実」です。(実際は三冊を買いました・・・ ジュンク堂万歳!)
著者の熊谷徹さんは21年間もドイツに住んで、何年間前からドイツのエネルギー政策を取材してきたそうです。その取材も背景に会って、この本が出来ました。
ご存知の通り、福島第一原子力発電所の炉心溶融事故から4カ月も経たないうち、ドイツの連邦議会と参議院では原子力発電所を2022年12月31日まで完全に廃止する法案が可決されました。「いいな。」と友達やフォロワーさんに言われながら、日本では急な決定として報道されていたような気がします。
しかし、ドイツは2011年3月11日に福島第一原子力発電所で発生した大事故を受けて、
「ねえ、脱原発しないかい?楽しそう?」
「いいね、ダツろうぜ!」
と軽く脱原発を決めた訳ではありません。
メルケル首相が原発擁護派から反対派に転向して2022年末までドイツの原発全廃の決定を導いた背景には、70年代からの原子力のリスクについてドイツ社会中に激しい論争の歴史があります。国民性ももちろんありますし、ドイツ人が負っているナチスの残酷な歴史も多少は影響があります。
ドイツ国内で行われた論争があまりにも激しくて、国を二分されたといっても加減ではありません。
ご存じないかもしれませんが、物理学者のメルケル氏は2011年3月11日まで原発擁護派でした。彼女は2010年の秋にドイツの電力会社と産業界の意向を取り入れて、「脱原子力法」を見直して、古い原子炉の稼動年数を12年も延長していました。ですので、そのメルケルさんは震災後に「転向」した事は「敗北宣言」と呼んでもいいぐらいです。
実際にドイツの文化・戦後歴史等々の知識がないと、それを確かに理解し難いかもしれません。ドイツ人も同様に、3.11後の日本人の冷静な姿勢は不思議がって、「従順」と「封建的」と新聞で書かれていました。
原子力発電所全般廃止を説明するのに、熊谷さんはドイツと日本の考え方、分析、安全意識、リスク評価、不安への対処方法には数え切れない相違点をあげます。その相違点を全て説明するのは難しくて、私も断片的ですが、少しずつこのブログであっちこっち紹介しました。
著者の熊谷さんは21年もドイツに住んでいて、ドイツ語もドイツの文化はよく分かっています。長年にドイツのエネルギー関連事業・行政の取材をしていました。
「びっくり先進国ドイツ」、「あっぱれ技術大国ドイツ」という本はドイツ通の方はきっとご存知で、とても面白おかしくドイツ文化のあらゆる面を説明しています。「あるある!」と笑えてとても面白い本です。
私も以前ブログでチェルノブイリの経験、森のロマン、安全意識、リスク評価等と様々な原因を取り上げましたが、熊谷さんは「なぜメルケルは「転向」したのか」でそれらを細かく分析しています。参照文献のリストを見るだけど、熊谷氏どれぐらい慎重な方だとわかります。本当にすごい。
是非とも、皆さんにこの本をススメしたいです。
個人的に、定量化した評価を行ったところ、この本は100点満点に近いではあるけれども、残念ながら、90点だけです。
10点欠けている理由は四つがあります。
※ もう少しグラフや写真があっても良かったとおもいます。「原子力お断り」の笑っているお日様は今なら誰も知っているでしょうけど、念のために入れた方が良かった気がします。緑の党の初期の国会議員をより解りやすく説明 するため、席にお花を置いたり、長髪で議席に座っている議員、党大会で編み物をしている党員、ジーパンと運動靴で就任式に表れるフィッシャさん、1986年の選挙ポスター(右)等の写真があれば、より具体的に当時のことがわかったのではないでしょうか。
そういう写真はドイツ連邦公文書館(Bundesarchiv)からもらえるはずですから、とても残念です。
※ 一つ納得できないのはフランスからの原子力発電所によって発電された電力の輸入についての話。2011年3月10日と7月に一日ずつを比較しては充分な論拠と私は読んでいません。
私は本当に知りたい事はやはり、長時間をかけて自分でどうにかデータを調べていきます。そうしたところ、2010年、2011年の半年分ずつのデータを比較すべきです。私が今まで調べた結果で、そういう事実はありません。(近日ブログで書きますので、是非読んでください!)
※ 本を読んで倫理委員会には一覧されているメンバーしか参加してないという強い印象がします。著者は報告書を読んでいると書いていらっしゃいますが、実際の議事録のことは書いておりません。議事録を読んでいれば、委員の技術者はBASFの方だけではなく、公聴会には大手電力会社eon社の社長、都市施設局の局長、ブリュッセルの鉱業・科学・エネルギー業労働組合(EMCEF)の方、ドイツ賃借人協会の会長、農業経済学者研究所の所長、スウェーデン王立科学アカデミー・ウプサラ大学の教授、ドイツ経済研究所の先生、金属・アルミを扱う企業の役員、地方都市の市長、ある原子力発電所の所長、ドイツエネルギー水道事業連合会等々の名前が挙がって、役員も発言権があったことがわかります。もちろん電力会社の社長は経済を心配しています。
※ そして、それは、とてもドイツ人ッぽいと言われると思いますが、「ゴーレベン」、「トリッティン」、「チェルノブイリ」、「固定価格買取制度」という字引があればいいなぁと、こういう賢い日本語の本を読むといつも思っています。(いや、英語でもそうだったんですね。)字引を作るのは大変だと分かっていますが、読者も考えて欲しいです。このテーマを研究対象にする学者、調査報告書の参考として読む公務員もいます。一度読んだ事は覚えても、それは何ページに書いたかと満員電車でいちいちメモを取るのが大変です。
とてもうるさい読者と言われるでしょうけれども、上記の点が気になっています。
正直、この本を読んでとても悔しかったです。こういう本を書きたかったからです。しかし、もう熊谷さんは書かれましたので、もう書けませんね。
是非皆さんも買って読んでください♪ (いや、熊谷さんにはお会いした事はありません、メールのやり取りもしたことがなく、つまり広告は頼まれていません。)
もちろん、私のブログを読み続けてくださいね♪ 熊谷さんに刺激を受けて、こちらでももっともっと面白いものを掘り出してきますね。
よろしくお願い致します。
是非読んでみたいと思います。あっぱれ技術大国、というタイトルの本も面白そう。
投稿情報: Makikoimafuji | 2012/02/21 12:38